セイコー

グランドセイコー メカニカル SBGR023



セイコーという選択。
ロレックスでなく、オメガでもなく、そしてパテック・フィリップでもなく、セイコー。日本の腕時計、グランドセイコー・メカニカル SBGR023です。
現代のグランドセイコーに機械式がラインアップされたのは忘れもしない1998年11月27日でした。機械式のGSが出るらしいという噂を数ヶ月前に聞き、半信半疑で待っていたところに正式な発表。必ず手に入れるぞと熱くなったのを今でも覚えています。
いよいよ発売日となり、現物を見ようと出かけましたが、初期出荷数が限られていたのかなかなか見つけられませんでした。どうやらマスターショップや百貨店優先だったらしく、御用達のヨドバシカメラ関係には少数が遅れて入荷となったのでした。そうこうしているうちにGS熱が徐々に醒めていき、確かあの時はシードゥエラーになったような...(爆)
その後も何度かGS欲しい病を繰り返しましたが、なぜか買えずに今日まで過ぎました。そして発売からほぼ5年が経過し、とうとう手に入れました。

「最高の普通」を目指すGSはとにかくベーシック。一見してなんでもない腕時計です。遊び心の微塵もなく全てがスタンダード。誰も予備知識なしにこの腕時計を(この値段で)買おうとは思えないのではないでしょうか。店頭では他の国産時計とはちょっと違うポジションに気高くディスプレイされていますが、ショーケース内に置かれたGSは魅力的に見えません。
セイコーに限らず、日本の腕時計はバリエーション豊富でブランドロゴを見なければどこのものかわからないのが普通ですが、不思議なことにGSだけはそれとなく「セイコーだ」と感じます。これがセイコースタイルといわれるデザインなのだと思いますが、具体的にはどこのどの部分がそう感じさせるのか今でもわかりません。このセイコースタイルがダメな人はGSを好きになれないみたいです。私は普遍的なものが好みなので、このGSのオーソドックスなデザインは大好きです。この辺が「おっさん時計」と言われる所以でもあるわけですけど、気づいてみれば私は誰がどこから見ても典型的な日本の「おっさん」ですから、まさにハマる組み合わせなのです。
写真写りもイマイチ。このサイトの写真もダメですが(苦笑)、GSのカタログ写真ですら全てを伝え切れていないと思います。これではいけませんね。とにかくGSは現物を手にしてみなければ何もわからない、そんな腕時計だと思います。

セイコーが持てる技術の全てを投じて開発した高精度メカニカルムーブメント、9S55キャリバー。実用性最重視の安定したいい機械だと思います。私には技術的なことはほとんどわかりませんが、純日本製らしく生産効率と実用精度の高さ、メンテナンスのしやすさなどをバランスさせたGSにふさわしい高級ムーブメントでしょう。
見せるムーブメントとしては意識されていないと思いますから、意外に素っ気ない印象です。このあたりはロレックスの機械と同じようなコンセプトなのではないでしょうか。
グランドセイコーのホームページにはGSの製作工程を見せる動画コンテンツが掲載されています。さすが正真正銘のマニュファクチュールであるセイコーならではのもので、自称マニュファクチュールの怪しいスイスウォッチメーカーとは違うと思いました。
それを見た印象は、やはり手間を掛けた製作工程と職人の技が必要なんだなぁと思う一方で、意外にも機械化が進んでいることにも少し驚きました。機械式の腕時計といえばどうも手作りでコツコツとゼロから職人が作り上げているんじゃないかなんて思いがちですが、そんなはずないですね。部品の製作工程なんかはコンピューター制御のNCマシンやプレスマシンです。仕上げの面取りや表面の装飾もマシンが行っています。テンワやひげゼンマイのブレ取りは人手でやっているようですが、テンワのバランス調整が自動なのにはちょっと驚き。オートバックスでタイヤホイールのバランス取りをするのと同じ原理のようなマシンで(もちろん大きさと精度は全然違う)アンバランスを測定し、削って調整する(これも自動)シーンにはビックリです。
それでもクオーツや安物メカムーブメントとは何から何まで違い、現代の工業製品の製造工程では考えられないほどの手間と技が必要な、伝統工芸品の領域に達していることは間違いないでしょう。
スイス・クロノメーターを上回る厳しい新GS規格を制定し、それに合格したムーブメントだけが製品となります。その一つ一つには立派な歩度証明証が添付されてきます。演出の一つには違いありませんが、これがまたたまらないですよね。単に精度だけなら、機械式腕時計はどれだけがんばったところで、ダ○ソーの100円デジタル腕時計にも敵いません。スペック至上主義であれば機械式腕時計はその存在意義もありません。もちろんそれだけではない世界があることが認められているからこそ、スイスの高級腕時計メーカーが存続し、日本のセイコーも機械式腕時計に目を向けたわけです。

実際にGSを手にし、使ってみた感想はどうでしょう。
語られつくしていることではありますが、仕上げの質感の高さには感動します。限られた職人しかできないザラツ研磨で磨き上げられたケースはパーフェクトで、筋目仕上げも美しいです。また全てのエッジが丸められていて優しい印象です。価格帯、仕様ともにロレックスのデイトジャストSSモデルとぶつかりますが、比べるとロレックスの方が磨きも筋目の仕上げもラフす。このあたり(わざと?)エッジを残してシャープ感を出している(のですか?)ロレックスよりGSが完全に着用感で優れているところだと思います。エッジを出すのと丸めるのではどちらが仕上げの技術として高度なのかは判断できませんけど、ザラツ研磨はその結果としてエッジを出すのが難しいのかもしれませんね。。
シルバーダイヤルのSBGR001は旭光仕上げの文字板ですが、このSBGR023の光沢のあるブラックダイヤルの仕上げも美しく、光輝く棒字(アワーマーク)も映えます。GSの特徴的なドルフィンハンドも完璧に磨かれ、サイドが面取りされ、ゾクゾクするようなコントラストを見せてくれます。
ブレスレットの質感はとても高く、しなやかで仕上げもよく、バックルの使い心地のよさも特筆ものなのですが、GSはどういうわけか高級品にもかかわらずコマの調整が安物と同じような割りピンタイプなんです。どうしてネジ固定タイプじゃないのでしょうか?
神経質な私が特に感動し、満足したのが針の合わせ易さと、指示精度の高さです。私は秒針が12時のとき、分針がピッタリ目盛りを示さないとイライラしてしまうのですが(ちょっと大袈裟ですが)、このGSはまさに完璧。一度の調整で針がずれないし、全周どの位置に分針が動いても目盛りから一切のずれがありません。これは素晴らしいことで、実は多くの機械式ムーブメント(クォーツも同じでしょう)はけっこう誤差があるものなのです。ずれの原因は機械だけでなく文字板の取り付け精度や目盛りの精度ももちろんありますが、セイコーの高い技術はその全てが完璧を期されているという証明でもあります。とにかくこれだけで私なんか愛着心が倍増です。オーバーシーズではまず分合わせそのものが難しい上に、分の位置によって半目盛り(つまり30秒分)くらいずれてしまうので、結局神経質に合わせたところで無駄ということになってしまいます。おおらかな人はこういうことを気にしないようですが、私と同じように気にする人も日本人なら多いと思うのですが...。
日付の動作は23時くらいから0時15分くらいにかけて、徐々にずれていき、そして最後に パチっと切り替わるタイプ。いわゆるデイトジャストではありません。クォーツの9F系キャリバーでは瞬間日付送りにこだわって、最高の実用品を目指したGSだから、中途半端な日付表示を見せることは許されないといった趣旨のうんちくが初期のカタログで語られていました。それなのにそれなのに...(泣) 機械にとってはこのほうがトラブルが少ないと言われますけど、徐々に変わる日付ってやっぱり嫌だな。完全安物機械のように4,5時間もかけて変化するよりはマシだけど。
肝心の精度ですが、文句ないです。私の個体では購入当初の実用日差約+3秒程度です(追記:半年以上経った今では一週間で+5秒です)。安定していて変動もほとんどありません。自動巻きの効率は若干悪く、デスクワーク主体の生活パターンだと十分巻き上がらず週末に外すと20時間未満で止まってしまいます。

デュアルカーブサファイヤクリスタルの風防はカメラのレンズのように両面無反射コーティングが施され、視認性を上げています。コーティングは緑色に見えます。
ただ私はこのコーティングに不安があります。腕時計の風防は通常使用でも傷の付きやすい部分で、故に硬度の高いサファイヤがラスが使われるようになったはずなのに、経年変化を受けやすく、剥げやすいコーティングをわざわざ施すのには疑問が残るのです。腕時計は大事に使ったところで常時シャツや上着の袖口で擦られるわけです。カメラのレンズをシャツの袖でゴシゴシ拭く人はいませんよね。しばらくしてコーティングが剥げ落ちた時計を見るのは嫌です。それともカメラのレンズコーティングと違って問題にならないくらいの強度をもっているのでしょうか。コーティングをするなら裏面だけにして欲しかった。
リュウズはネジ込み式ではありません。通常のリュウズで100m日常生活強化防水の性能を持っています。取扱説明書によれば水泳や素潜りにも使用可能とのこと...。心理的にはやや不安を感じますが、日常生活で考えられる程度の水にはまったく問題ないということでしょう。このためかどうかはわかりませんが、リュウズ周りのパッキンがきつめのようで、リュウズの操作感はちょっと重いようです。
耐磁性能に関しては何の表示もありません。クォーツのGSでは40,000A/mの耐磁モデルが登場しました。また通常のモデルでも耐磁を謳っているものは4,800A/mの耐磁性能を持っているのですが、メカニカルモデルは残念ながら非耐磁です。現代の腕時計には防水より耐磁が重要だと思っていますので、ちょっと残念というか心配なところです。

機械式腕時計といえば、今でも確かにスイス製が中心です。セイコーがかつてスイス製を追いかけ、一つの答えを見つけたところでクォーツに移行し、それまでとは別の路線を独走しました。時代が変わって再び機械式の腕時計が復活し、9Sキャリバーとともにグランドセイコーにもメカニカルモデルが戻ってきました。
純粋なマニュファクチュールで、高級実用品で、普遍的で、ビジネスライク。前にも書きましたがロレックス・デイトジャストと全てがぶつかるコンセプトです。他にはライバルがないといっていいくらいでしょう。見ようによってはスタイルまで似ているといえなくもありません。しかしグランドセイコーを実際に手にし、日々使ってみると「最高の普通」が何なのかがわかってきたような気がします。誇りを持って所有し続けられる、そういうレベルに達しています。
MONO系雑誌等のメディアにもあまり取り上げられることもなく、どこかのアイドルが愛用してブームになり人気沸騰なんてこともあり得ません。
メイド・イン・ジャパン。日本にはいい腕時計がある。なんだか意外なところで私の腕時計煩悩に終止符が打たれるかもしれません。(...「そんなわけあるかいっ!」:某知人談)

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