静謐の森 - ドゥーム / ストーナー / スラッジ・コアのアルバム・レビュー

静謐の森 - ドゥーム / ストーナー / スラッジ・コアのアルバム・レビュー
Forest Of Tranquilness

Doom / Stoner / Sludge-Core Rock Site

用語

ドゥーム / ストーナー / スラッジ・コアはかなりマイナーなロックの一ジャンルです。ひとまとめにされていますが、それぞれの音楽内容は異なっています。ぎゃくに共通の属性をもつがゆえに、ひとくくりにもされています。それぞれの音楽性について定義し、代表的なバンドや必聴作品の一例をあげます。

ドゥーム・ロック / ドゥーム・メタル

「ドゥーム doom」 とは、「不幸な、または恐ろしい運命」、「破滅、死」、「神による最後の審判」 を意味する言葉だ。文字どおりドゥーム・ロック / ドゥーム・メタルは、悲嘆、悲哀、宿命などをテーマにおいたロック、あるいはメタルということになる。その音楽は暗く、重く、沈殿する感覚を前面に押しだしてくる。
出発点は Black Sabbath のファースト・アルバム 「Black Sabbath」 (1970年) であり、さらに限定するならば、その第1曲 「Black Sabbath 黒い安息日」 にある。トニー・アイオミの弾く、ブルース音階のもっとも暗いラインをたどってゆくかのような、のたくたした単音ヘヴィ・リフが特徴だ。またオジー・オズボーンの粘着質の歌声に代表されるような、魔術的で邪悪な雰囲気などもこのジャンルの特性のひとつとなる。

ドゥーム本家 Black Sabbath は1979年にオジーを馘首し、やがて様式美ヘヴィ・メタル・バンドへ移行していったが、サバスのもたらしたドゥームの種子はマイナーなレヴェルながら脈みゃくとうけ継がれてゆく。それはたとえば、サバスと同時期にバンドをスタートさせて以来、一時は解散状態をはさみながら現在もメンバー交代を繰りかえして存続しているアンダーグラウンドのカリスマ Pentagram を代表格としたバンドらであり、かれらの残した 「Relentless ( Pentagram )」 (1985年) はほぼ完璧なドゥーム・メタル・アルバムといってよい。すでに20年以上のキャリアのなかでほとんど音楽性を変えずに一貫して70年代様式のヘヴィさにこだわってきたスコット・"ワイノ"・ワインリックが在籍した Saint Vitus、同じくワイノがひきいた The Obsessed 「Lunar Womb」 (1991年)、N.W.O.B.H.M. の地下バンドとして活躍した Witchfinder General、初期のドゥーム勢のなかではもっとも商業的な成功をおさめた Trouble 「Psalm 9 ( Trouble )」 (1984年) といった作品群は、現代ドゥームの原型をいまにつたえている。

やがて90年代に入り、グラインド・コアの雄 Napalm Death から脱退したリー・ドリアンが、遅重ドゥーム・メタル・バンド Cathedral を結成して、実験作 「Forest Of Equilibrium」 (1991年) を発表し、あわせてドゥーム専門レーベル Rise Above Records を創設 (1989年)、アンダーグラウンド・バンドの発掘に尽力する。これによって一部の熱心なリスナーを獲得。それまで表だって語られてこなかったドゥーム・ロック / ドゥーム・メタルというジャンルに光があたることになった。

ドゥーム・ロック / ドゥーム・メタルがヘヴィ・ロックの一ジャンルとして認知されて以来、10年以上の月日が流れ、その間にたとえば、Cathedral の 「The Ethereal Mirror」 (1993年) や、Electric Wizard 「Come My Fanatics...」 (1996年) や、Goatsnake 「 I 」 (1999年) といった傑作アルバムが生まれた。

シーン全体のドゥームのありかたも次第に変化した。各バンドはみずからの個性を確固たるものにするため、さまざまな音楽の要素を貪欲に取りいれ他バンドとの差別化をはかってきた。また70年代から活躍してきた往年のバンドと、90年代のグランジ・ショックを機にロックに目覚めたという若い世代が同居している状態でもある。そうしたなか、ドゥームの内部でもストーナー・ドゥーム、フューネラル・ドゥーム、ドローン / ドゥームなど事細かなジャンル分けがなされるほど拡散方向にあることはもちろんであるし、いわゆる正統派ドゥームだけをやりつづけているバンドを見つけるほうがむずかしい。

現時点でのドゥームの到達点の一例として、Teeth Of Lions Rule The Divine 「Rampton」 (2002年) をあげておきたい。ドゥームの出発点 「Black Sabbath 黒い安息日」 を、誇大妄想的な規模で先鋭化、拡大化した作品だ。

ストーナー / ストーナー・ロック

「ストーナー stoner」 は1990年はじめに音楽シーンに登場した言葉で、およそマリファナを吸引し、酩酊状態のなかで演奏する (聴く) ヘヴィ・ロックをさす。もしくはそうした酩酊状態を表現した音楽をいう。ドラッグによるトリップ状態を 「stoned」 というところからの発想だ。
元祖は Kyuss とされるが、かれらはマリファナ色を強く感じさせるバンドではない (サイケデリックな音像と執拗なリフの反復にトリップ感はあるが…)。むしろストーナー・ロックの共通の属性となっている、もうひとつの重要な特徴である 「70年代様式への回帰志向」 を、先駆的にやりだしたバンドが Kyuss であったことを見のがすべきではない。アルバム第2作 「Blues For The Red Sun」 (1992年) の先駆性は Kyuss スタイルという言葉も生みだし、多くの亜流を生んだ。

70年代様式への回帰は、音楽的にはブルースへの傾倒とサイケデリックな色彩感の誇張をもたらす。ブギーやシャッフルなど横ノリのグルーヴを重視し (縦ノリの場合はロックンロールとなる)、各楽器の音づくりにもレトロな発想が息づいている。また70年代に活躍したバンドのなかで Black Sabbath はとくにリスペクトの対象となり、各バンドともなにかしらの影響を受けている。ストーナーとドゥームはまさにサバスによって同一ジャンルとしてのつながりを有している (実際の音楽はかなり異なってはいるのだが)。

Kyuss と同時期にドラッグの酩酊感と極端なサイケデリカを強調して活動をはじめた、デイヴ・ウィンドーフひきいる Monster Magnet は、「Spine Of God」 (1991年) という傑作アルバムを発表。また Kyuss とともにデザート・ロック (ストーナー勢のなかでも、米西海岸の砂漠地帯で活躍したバンドら) という範疇で語られる Fu Manchu も熱烈な支持者が多く、「King Of The Road」 (2000年) などの無頼漢ブギー・ロックは、誰が聴いてもカッコいいだろう。

現在、ストーナー・ロック界に覇をとなえているのは Kyuss のギタリストだったジョシュ・オムと、同じく Kyuss の盟友だったニック・オリヴェリが主導する Queens Of The Stone Age にちがいない (すでにニックはバンドから脱退)。かれらが作りあげた奇跡の名盤 「Rated R」 (2000年) の斬新さはロック界そのものに揺さぶりをかけ、ストーナー・ファンだけでなく一般のリスナーからも熱い歓迎をうけた。そのほかスラッジ・コアの神人 Sleep 解散後、野蛮ですらあるほどの原始的な爆音をかき鳴らして復活をはたしたマット・パイクひきいる High On Fire 「The Art Of Self-Defense」 (2000年) なども、このジャンルのニュー・ウェイヴと見なしてよいだろう。

スラッジ / スラッジ・コア

「スラッジ sludge」 とは、「泥」 や 「ぬかるみ」 をしめす言葉であり、その意味どおり、ズルズルと引きずるような泥濘リフを特徴とするハード・コアの一ジャンルだ。音楽は暗く、遅く、殺伐とした陰惨な雰囲気に満ちている。ヴォーカルは通常歌わずに絶叫し、うなる

Black Sabbath からの影響とハード・コアを融合させて唯一無二のサウンドを作りだし、このジャンルの起点をなした Eyehategod を、まず最重要バンドとしてあげなければならない。「Take As Needed For Pain」 (1993年) は、かれらのもっとも充実したアルバムであり、スラッジ・コアのエッセンスがつまった作品だ。

また、ドラッグ漬けの音像がまさにストーナー・ロックでもある Sleep は、数はすくないが驚嘆すべき緊迫感に満ちたアルバムを残し、なかでも全1曲52分11秒という 「Jerusalem」 (1999年) は、ほとんど単一のスラッジ・リフとお経のような歌で貫徹され、前人未踏の領域をきりひらいた。そのほか Bongzilla も、アルバム第1作 「Stash」 (1999年) で泥濘リフにマリファナ讃歌をのせ、先人たちの足跡にみずからを順当に重ねあわせて現在にいたっている。

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