中華料理の飲食店に入って、料理が出てきたところで、グループの一員が「機内食は美味しくなかったですね」と言ったら、近くにいた女性の店員が「料理、美味しくない?」とわめくように言った。慌てて、その人が「機内食。エアプレーン」と言ったら、了解したようだった。店に来る客は、一般に「美味しい」とは言うが、「美味しくない」とは言わないと思う。彼女らが「美味しくない」という日本語を知っていること、それに敏感に反応したことに驚いた。
「カジュアルな服装」とは
船(5万d)は、多国籍の乗客800人も乗せるため、常時6つのレストランをオープンしている。ディナー以外はバイキング方式。レストランには、微妙に「格」があって、ウェイターたちの誇りやサービスぶりにも違いが見られる。いいところは、大抵込んでいる。
その一つ「王朝」という意味のレストランで「事件」が起きた。旅行会社も船会社もパンフレットには「服装はカジュアルで」をうたい文句にしていた。ある晩、グループの1人が、シャワーを浴びた後、襟なしシャツに半ズボンで、ここに入ろうとしたら、「待った」がかかった。周りには、それらしい風体の外国人(我々もそうだが)がちらほらいる。外国人の女性の半ズボンは珍しくない。
彼の主張は認められず、彼は船室に戻って、今度はバリっとした格好で現れ、係員に見せ付けるようにしてテーブルについた。誰かが「彼らが日本人に偏見を持っていることの表れかも」と言ったが、あるいは、そうかも知れない。
シンガポールの名物「三輪車」(トライショーという)は、大体、20台ほどが一列縦隊で走る(というより動く)が、先頭車が信号無視をすると、みんなそれにならえだ。車が走っていようが「斜め横断」などへいっちゃら。我々は何度も手を上げて、横を走る車に徐行してくれるよう(?)合図をした。
「三輪車」には客が前に乗り、こぎ手は後ろだ。客から景色が見えるように配慮したものだが、何かにぶつかったら、まず客の方が「いちころ」かも。でも、よくしたもので、傍を走る車の運転手たちには、大事な観光資源のせいか、「三輪車優先」の思想を守っているらしい。言うまでもなく、京都などの街を走る「リキシャ」の方が優雅で品格がある。
マレーシアのペナン島も、次のタイのプーケット島も、島民は広くて長いビーチや寺院を観光資源に生きていた。ホテル経営者のようなリッチな人は別として、多くは、年中気温が高いせい(ちなみに、6月17日は、気温32度、湿度75%の蒸し暑さだった)もあって衣服は地味、食べるものも質素のようだ。
観光客相手のかなり、安くて念入りなマッサージ業も盛んだ。ペナン島では、水上生活集落まで、観光地にしている逞しさ。汚水は海(浅瀬)にタレ流し、水中には、なぜかワニが棲んでいて、それらや台所の残滓をエサにしているらしい。水上生活者の中には、ほかに、立派な家を持っている人もいるそうだ。
ビーチで遊んでいるのは大抵外国人で、高齢者が目立つ。正月などは日本人の若者も結構目立つそうだ。旅行会社のイメージ写真ではきれいに見えるが、よく見ると、ただの長くて広い砂浜で、それほどの景勝地もないようだ。
外国人が多いのは、食べ物や宿泊場所(ホテルやコンドミニアム)が安いため、長期滞在者が多いせいのようである。我々のように、バスでやってきて、ビーチでパラグライダーなどを見、マッサージをしてもらってお帰り、という人種はまれなのかも知れない。
テロ対策でどこの空港の出入国のチェックの厳しさは相当なものだが、シンガポール空港は、実際に近隣諸国でテロ事件が発生しているため、特に厳重。以前は、パスポートは2回提示すれば済んだのに、今は最低5回も。ポケットにしまいこんでいるヒマはない。
ある添乗員は、髪の形を変えたため、写真の顔と違って見えたらしく、係官に詰問され、さらに悪いことに、香水がわずか10_g超えただけで没収された。ペットボトルの機内持ち込みが×なのは、どこも同じだ。

現地の添乗員が「これから、枕を見に行きます」と言った。コースには書いてない場所だ。ホテルの小ホールに案内されると、日本人がいて、立て板に水のごとくしゃべり始めた。
「みなさんが使っている低反発枕を切ってご覧なさい。ダニの死骸だらけです。アレルギーになるはずです」「わが社が日本ではなく、この国で枕を生産しているのは、この国で採れるゴムの粒子を材料としているからです。ゴムだから柔らかく抗菌性が強いのです。快眠間違いなしです」「この8月、日本で有名寝具メーカーから2万8千円ほどで売り出されます。ここでは、何と1万1千円です」。客の1人が「そんな嵩張るものを飛行機に持ち込めない」と言うと、待ってましたとばかり、布団をペシャンコにするCMで知られる例のビニール袋と電気掃除機を持ち出し、枕4枚を入れたビニール袋の空気を抜いた。ペシャンコになった。男は得意げに「これなら、飛行機に持ち込めるでしょう。1つの手提げに4枚も入ります」。
“ショー”はまだ続いた。枕の体験だ。10台ほどのベッドに置かれた男性、女性用のベッドに、客が臆せず横たわり、枕の感触を確かめる。これこそ、「催眠商法」かも。
免税店は成田が安い?
外国人に税金分だけ安く売る「免税店」は、昔ほど安くないと言われるが、ほぼ同じ商品について、数カ国の免税店の値段を調べた女性が、我々と同じバスにいた。「10万円程度の物では、成田空港の免税店のが最も安かったわ。免税店の袋はどこも同じだから、友達に“ほら、あなたが欲しがっていた品よ”と言って黙って渡しました」と、悪びれたところがない。この場合、成田空港の免税店で買った品をそこに預けて、帰国した際に受け取る方法で、外国から運ぶ手間もかからない。
バスには、東京から同行した旅行業者の添乗員と、この会社が依頼する現地添乗員の2人が乗っていた。「現地」は、多くはシンガポール人か中国からの出稼ぎで、地元のことに精通していて日本語もまずまず。しかし、「あそこの店、美味しくない」と、いうようにぶっきらぼうだ。敬語など使えない。中に、ひどい駄洒落を言う添乗員もいて、「ホテルではトイレは無料。したいほうだいよ」と、のたまう。
大事な出入国検査の手順の説明となると、客の方がこんがらがってしまい、見かねた本物の添乗員が改めて説明した。これが、筋が通っていて、「初めからあなたがやったら」と言いたいくらいである。

旅にはハプニングがつきものである。それが、しょっぱじめから起きた。元凶は岩手・宮城内陸地震。東京に向かう夫婦一組が、東北新幹線に閉じ込められた。2時間後に動き出したものの、徐行運転が続き、既に成田に到着している三組ともども、そわそわし始めた。むろん、添乗員も。
「いま、どこ?」、携帯による連絡が頻繁になる。搭乗機のANAのカウンターとの相談もしょっちゅう。「スーツケースは機内に持ち込めないか」とANA。持ち込めれば、預ける分の時間が稼げる。「微妙だ」と先方。持ち込み不可なら、おいていくしかない。「スーツケースから、衣服など最少限度のものだけを取り出し、それを大きなビニール袋に入れ込んだら、機内に持ち込めるはず」。グループの幹事が真顔でそう言った。この場合、格好など気にしておれない。
残り時間を推測すると、ギリギリだ。後発のシンガポール行きは一便しかなく満席。翌日の便に乗れたとしても、クルーズ船には間に合わない。 ANAのカウンターの女性が携帯に向かって叫んでいる。「何号車ですか。迎えに行きます」。二人を待ちうけ、ホームから最短ルートで搭乗口へ誘導しようというのだ。我々は全てをANAの女性に託して、搭乗口へ向かった。 「我々だけで出発するか、全員が参加をやめるか」。幹事の顔がゆがんだ。搭乗機には、我々を除いて既に全員が乗っている。搭乗ゲートの係員が、我々に早く乗るよう催促している。
「いま、チェックイン中。ケースは持ち込めそう」。助かった。長い通路の向こうに二人の姿が見えた。抱き合うまもなく、みんななだれを打って飛行機に乗り込んだ。「向かい風」のため、さらなる遅れを気にしていたパイロットも、さぞかし安心したに違いない。
「あれ何? 三色旗みたい」。バスで観光中の客から、すっとんきょうな声が上がった。シンガポールの少し街外れの住宅街。と言っても30階近いビル群である。その窓という窓から「三色旗」がはためいていて、それも2本か3本の竿が、前方に向かって開くように。洗濯物を干しているのだ。
ところが、見るからにかっこいい別のビルには、それが見られない。前者は一般の労働者のアパート、後者の多くはエリート会社員か公務員のマンションなのだ。「裕福で若い国」と羨まれた都市国家にも最近、貧富の差が目立っているそうである。
車道や歩道をよく見ると、ゴミが見当たらない。普通のゴミに限らず、特にタバコやチュウインガムを捨てるところを見つかったら罰金をとられるのだ。
広い車道は、ラッシュ時でも車がすいすい流れている。この国は、国土が狭いせいもあって、鉄道がない。だから、大半の家庭は車に頼らざるを得ないののだが、中心街とは“無縁”の車が多い。ここにに乗り入れるには、「乗り入れ税」みたいなものを払っているわけだ。一般の人は、網の目のように走るバスを利用しているという。環境保護という点から、このような政策はいいのかも知れない。
広い歩道にはカフェテラスが目立ち、まるでヨーロッパの街のよう。しかもウィークディーなのに、どこの席も満杯。お年寄りの姿がまばらで、老人をみかけたら、その多くは外国の観光客だ。

アジアン・クルーズのルート
成田―(空路)―シンガポール(クルーズ)―ペナン(マレーシア)―プーケット(タイ)ーシンガポール(空路)―成田
| 長野、福島、岐阜、富山の4組の夫婦8人が、08年6月14日から20日まで団体ツアーに混じって「アジアン・クルーズ」を楽しみました。8人は、10年前、「地中海クルーズ」で知り合って以来、年一回、ゴルフや旅行を楽しんでいる“仲良しグループ”です。「他人の旅の話なんて」と言われそうですが、「埋もれさせるにはもったいない」というのもあり、書きおろしてみました。(筆者) |