「保育所クレーマー」について、いろんな職業の保護者からメールを頂きました。はるか昔に、子育てを終えた筆者には「目からうろこ」のような話がたくさんありました。
また、筆者が保育所に足を運ばなかったことで、原稿に説得力を欠いたことも痛感しました。
以下は、2人の保護者からの、「保育所感」です。
「保育士をやめさせろ」
「保育士の解雇を要求する」。ー若い保育士でなくとも、こんな言葉を浴びせられたら、立ちすくんでしまうだろう。
「うちの子(2才・女児)がブサイクとは何ですか」。担任の保育士がそう言った、とこの子の母親がすごい剣幕で言ってきた。保育士は「そんなことは言わない」と言うが、母親は「うちの子が嘘をつくはずがない。こんな担任では、子どもがかわいそう。担任を代えてほしい」と引かない。
母親のクレームは拡大する。保育士の、ちょっとした対応のまずさについて、保育所の玄関先でがなりたてる。子どもを欠席させたうえ、「まもなく退所させる」と言い、保育士の辞職を求めてきた。
保育所側に配慮不足も?
「時に、もっと保護者の立場に立って対処する必要がある」。保育所側がこう感じる事例もあった。
子ども(4才・男児)が家に持ち帰ったスナップ写真に、この母親が不快感を覚えた。小柄な自分の子が、クラスで一番背の高い男児と並んで写っている。「それでなくても自分の子は背の低さを気にしているのに。この撮り方は、そんな配慮に欠けている」。母親はそう言ってきた。
これに似たようで本質的に違うケースが、これまで全国的に頻発した。例えば「100メートル走で、早い子ばかりの組に、うちの子が入れられたため、ビリに近かった。順位をつけるのはおかしい」、「騎馬戦で、上に乗る騎馬武者の決め方が不公平。うちの子が選ばれて当然」などといったものだ。こんな不条理なクレームで、徒競争をやめるところが出た、という話はやりきれない。
「事例集」に盛り込まれたクレームは、まさに多種多様だ。そのクレーマーたちの前に、時に保育所長が、時に担任の保育士が先頭に立つ。理不尽な要求と分かっていても、務めて保護者と対話し解決を目指す。その場合の「指針」はあくまで「指針」に過ぎない。「こんなにまでして、やっているのに…」。保育士たちの無念さ、じれったさがうかがい知れる。
他のいくつかの事例を列挙しておきたい。
◇保育所での午睡時間が長いので、家で子どもがなかなか寝付かない
・措置・結果=保護者が保育所での昼寝の大事さを認識した
◇車中でおむつを交換していて、会社に遅刻したら保育所は賠償してく れるか
・措置・結果=保護者は、そのようなことも予見する必要があるとして、 保育所側の責任なし
◇子どもにシラミがついた。保育所のせいだ
・措置・結果=子どもが遊びに行った家の犬・猫からうつった可能性も ーという医師の話で納得
◇保育所で汚した衣服は、保育所で洗濯して返してほしい。保育料も税 金も払っているのだから
・措置・結果=保護者と保育所の役割分担を認識してもらった
◇お金がないので保育料が払えない
・措置・結果=話し合いの末、分割払いで合意
(08年7月)

“勝手にブランド品に記名された”
弁護士に相談するケースも珍しくない。
保育所に限らず、子どもの持ち物に親が名前を書くのは当然である。それを怠ったために、やっかいなことが起きた。
遠足に出発する際、真新しい水筒に名前が書いていない子(5才・女児)がいた。保育士は急いで油性マジックで小さな字で名を書いた。翌日、保護者から電話がかかった。「あれは東京にしか売っていないブランド品。インターネット・オークションにかければよい値で売れたはずなので、弁償してもらいたい」。
保育所側は、無断で記名したことを詫び、消すことを申し出たが、先方は「汚れたものは商品にならない」「うちの子どもは、自分の持ち物はよく分かっているので、名前を書く必要はなかった」などと言い、暗に弁償を求めた。
保育所スタッフの頭には、「ブランド品」「弁償」の2文字が去来し、対応に悩んだ。弁護士のアドバイスは「マジックで記名したことに違法性はなく、賠償義務もない。故意に書かない保護者にこそ違法性がある」というものだった。
この場合の保護者には、無理な対応かもしれないが、保育所側は、この件から「保育所で記名する場合は、務めて保護者の了解を取る」との指針を“確認”した。
背景に“困った人間性”も
保護者の“困った人間性”が背景となって起きるトラブルは面倒だ。しかも、発端の多くは些細にみえる。
この保育所では、送迎時の車は安全上、フェンスに沿って縦に駐車することになっていた。ある母親が玄関前に乗り入れたため、縦列駐車への協力を求めたところ、それが気に食わなかったらしい。
以来、「保育士がうちの子を、後ろから突き倒した」、「お昼寝しないで友達と2人で遊んでいたら保育士に叱られ、チョップ(空手チョップの意(?)で叩かれたらしい」、「子どもが持ち帰った写真が傷だらけ。気持ち悪いので、取り替えてほしい」などと、事あるごとに言ってきた。
「チョップ」や「突き倒す」は、ほとんど事実無根、写真の傷も判別しにくいものだった。必死に説明をする保育所側、それを受け入れない母親は、ついに担任保育士に暴力を振るった。
やむを得ず保育所は告訴したが、被害者の保育士との間で示談が成立したことなどから、母親は不起訴処分になった。「時に、き然とした態度を見せることも大事。母親が、良い方向に向かうよう願っている」と、関係者は総括しているが、ケースとしては、まさに「最悪」だ。
子どもが保育所で転んで、頭に軽いけがをした。保育士はすぐに医師の手当てを受けさせ軽傷だったが、子どもの父親が保育所に怒鳴り込んだ。「救急車をなぜ呼ばなかった」、「どうして頭のMRIを撮らない!」。ー
「モンスター・ペアレント」が世間を騒がせたころ、富山県内の小、中学校は「それほど深刻なケースはない」とのことだった。ところが、いま保育所で、それが頻発しているのである。“クレーマー”たちの多くは理不尽で、時に暴力を伴い、特に若い保育士たちが怯えている。
「保育所クレーム対応事例集」。富山市と保育士たちで組織する市保育連盟が、最近、こんな小冊子をまとめた。公私立87の保育所(委託を含む)から届けられた60件のうち、タイプの違う18例を取り上げた。同様のケースへの対応指針でもある。
冒頭のケースの詳細はこうだ。
その日、子ども(5才・女児)は新しい大き目のズックを履いていた。いわゆるブカブカ状態。そのせいか、くつが脱げかかり、その拍子に机の角で眉の横を切った。保育所は母親に連絡し、先方の希望する病院へ、職員が子どもを連れて行った。母親も来院。2針縫った。
翌日、父親が怒鳴り込んできた。「頭の中に傷が残ったらどうする、MRIを撮れ」などというので、病院の医師と面談してもらうと、医師にも同じ言葉を浴びせた。あげくは「〇月〇日まで回答せよ」と迫る。職員たちは怯えた。
この“事件”に保育所はどう対応したか。「基本」は@丁寧な言葉遣いを心がけるA務めて両親とのコミュニケーションをとるB事実関係を的確につかみ、それを記録に留めるC理不尽と思える言動には、き然とした態度をとる-である。
これらのことは、保育士みんなが理解している。しかし、先方の人間性によっては、そううまく事は運ばない。表面的には解決したように見えても、わだかまりが残る。このケースも、どちらかといえば今も“冷戦状態”のようだ。