「父さん、今度の連休に帰ってきていい?」
この10年ほど、大型連休には帰省したことのない、娘や息子夫婦から電話があった。
相次ぐ小さな余震、乾電池、ガスボンベなどの不足、放射線にまつわる、いまわしい噂。それらから、いっとき逃げたい気持ちもあるらしい。
娘夫婦は2年前、東京から軽井沢近くに移り住み、イラストレーターの夫は作品をインターネットで会社に送り、月に一度だけ東京の本社に出る。その彼も、今度の「計画停電」には参ったらしい。
彼らが富山に滞在するのは3、4、5日。老夫婦だけの我が家で、2家族6人も居座ってもらっては、こちらが対応にくたびれる。立山極楽坂の温泉付きホテルに、予約の電話を入れた。
「3部屋ですか。ツインまたは和室、和室と洋室半々のタイプもあります」。「料金は、通常と同じです。キャンセルが多いのです」。ホテルマンはそう言った。
小学5年生の孫(男)は、富山に来るのをひときわ喜んでいた。狙いは私にゲーム機のソフトを買ってもらうことと、回転ずしだろう。
3日夕、2台の車が到着。すし店へ直行した。
店の待合は、“難民キャンプ”のように込んでいた。待つこと1時間半。都会組は「こんなの当たり前ですよ」と言った。塾に通っている孫は、この時とばかり、ゲームに熱中していた。
店の小部屋の壁際には“新幹線”が走っていた。タッチパネルで寿司を注文すると、すぐさま運んできて、注文客を見間違えず、その部屋の前に止まる。我が家族は、ものも言わずに次々と寿司を取って食べた。
空いた皿がどんどん積み上げられていく。金色や青色がやたらと多いのだ。トロやイクラがたくさん混じっているらしい。
「じいさん、空き皿など見てないで、みんなにもっと話しかけなさい」。妻にそう言われてしまった。
“飽食の時代”という言葉があった。私は娘の夫が吐いた言葉を思い出していた。
娘の家が1日2度も計画停電に見舞われ、娘が「乾電池が切れる、カセットのガスボンベが少ない」などとわめいたという。その時、夫はこう言ったという。
「たかが、3時間の停電でピーピー言うな。あんたのお父さんたちは、戦時中の幼いころ、どんなにかひもじく、不便な生活を強いられたか。豪雪の時だってそうだろう」。
(11年5月)
(注)この一文は、私の通う外国語専門学校(公開講座)で、プレゼンテーション
として話したものです。英文をのぞいてみたい方→ こちらをどうぞ
