芝居を観に行った。言いたいのはその芝居
が終わってからのこと。
 観客の拍手の中、出演者がそろっておじぎ
をし、幕が降りてくる。やがて客席も明るく
なって、客がぼちぼちと席を立とうとした時、
「これで第1部は終了です。これから第2部
にはいります」
というアナウンスがする。(そんなのあった
か?)と思う間もなく、幕があがった。
 するとそこにいるのはベテランの漫才師み
たいなおじさんだった。続いてそでから出て
きたのが紅い和服を着た若い女性。
 この劇団は本編の芝居が終わったあと、次
回公演の予告編をやることがある(まるで映
画のように!)客はその予告編が始まったの
かと思い、席を立とうとした人も思い直して
腰をおろす。するとおじさんが
「ど〜も、このたび○□レコードからデビュ
ーしました、北園町子でございます(名前は
すっかり忘れてしまった。これはてきとー)
どうぞよろしくお願いいたします。(中略)
それでは北園町子オンステージです」
とその和服の女性を紹介すると、♪チャンカ
チャンチャン♪と音が鳴りだし、女性が深く
おじぎをして唄い始めた。
 「?」どうやら本物だ。これは予告編では
ないらしい。お笑い系のこの劇団がよくやる
ギャグはいつまでたっても出てきそうにない。
 この演歌歌手と劇団がどういう関係かは知
らないが、自分の曲の宣伝のためにマネージ
ャーといっしょにやって来たということは比
較的簡単に分かることだった。
 他の客もそれに気づき始めた。1曲目の半
分くらいが過ぎたころ、何人かの客が席を立
った。しかし北園町子(仮称)はそれに見向
きもせず唄い続ける。
 芝居とは関係ないと分かってからの客の反
応はあまりにはっきりしていた。そこからは
雪崩のようだった。客は次々と席を立ってい
く。彼女が唄う目の前を通って出口へと向か
う。
 つづいて2曲目にはいる。もうそのころに
はほぼ満員だった客の半分位が帰っていた。
僕の目の前を通る人波で、彼女の姿もとぎれ
とぎれになる。
 それでも正面を見据えたまましっかりと唄
う、どう見ても20代前半の彼女に動揺がな
いと言えるだろうか。
「あともう1曲、もう1曲だけです!」
3曲目に入るとマネージャーも思わず叫ぶ。
 結局、3曲を唄いきると、わずかに残った
客のまばらな拍手に深々と頭をさげ、マネー
ジャーと共に舞台のそでに消えていった。
 僕も終演後に用事があったからすぐに劇場
を出たかったのだけど、結局最後まで席を立
つことができなかった。おかげで約束には遅
刻した。
 彼女がどんな曲を唄ったかはさっぱり覚え
ていない。ただ、目の前を去っていく200
近くの人をチラリとも見やることのなかった
彼女の目に、うっすらと涙が浮かんでいたこ
とだけが強烈に頭に残ってる。


              1994,3,24





コンビニ2軒

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メランコリック午後2時



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