| 山上有山 |
| 私のふるさとは日本でも有数の豪雪地帯、年によっては、5メートル・6メートル |
| の積雪を見ることも稀ではありません。 |
| それだけに春は雪解けの音に始まり、夏の新緑・蝉時雨、秋は全山紅葉から、 |
| やがて墨絵の世界へと四季の変容は子供心にも美しく心踊るものがありました。 |
| 山また山の連なりの果てに澄んだ空の色と一線を画してわずかに見えるもの、 |
| 「あれが海」と父に教えられた幼い日の風景は今も忘れることができません。 |
| 書を始めましたのは二十四歳、手紙でも書けるようにと気軽な思いで |
| 金子大弦先生の門をたたきました。手紙でもの「でも」が本当に難しいことは |
| 後々痛い程思い知ることになるのですが、初めて書のおもしろさに出会い、 |
| 筆を手にしていれば楽しい時期でした。 |
| 昭和54年、山崎大抱先生に入門のお願いにあがった日のことは今でも |
| 鮮明によみがえって参ります。緊張でこわばっている私に「僕でいいのかね」と |
| 先生は申されました。遥かに仰ぎ見ていた先生の思いがけない謙虚なお言葉に |
| 体中の血が音を立てて流れ、ろくなお返事もできずにいたことでした。 |
| それからは書の道の厳しさ、奥深さに足踏みをするばかりで、 |
| 先生の温かくお熱いご指導を賜りながら、大切な時を無駄に過ごしてしまった |
| 不肖の弟子でございました。 |
| 思えば書くことは、私にとりまして、幼い日に見た山の上に浮かぶ海、 |
| その遠い憧れに向かって一つづつ山を越えて行くことに外なりません。 |
未熟な作ばかりで恥じ入りますが、次の山を目指して鹿島立ちする
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| 第一歩の時と心しております。 |
| 渡部桂弦 |
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