地方取材


わたしは 地方取材が好きだ
どちらかといえば過疎ぎみの町を
ひとりでぶらぶらと歩きまわり
そこに住む人びとの生活の
色や響きを 味わうのが好きだ

ススキがゆれる 線路ぞいの道
畑の前の 無人野菜直売所
神社を横切る 犬と少年
どこからともなく
聴こえる「おかえり」の声

軒先での主婦の井戸端会議
路地裏を流れる夕餉のにおい
畑では 腰の曲がった老人が
一日の労働をおえて
うまそうにタバコを吸う

わたしは いわゆる転勤族の子で
この世のどこにも ふるさとはなく
特にほしいと思ったこともなく
だけど こうして歩いていると
あるにこしたことは ないなと思う

夕暮れどきの地方の町で
わたしはどこまでも
激しく ひとりぼっちだ
ひとりぼっちがいっぱいの
東京では感じることのない
異国で感じる旅愁ともちがう
集団のなかの ひとりともちがう
母国にいるのに 異邦人のような  
胸にしみいる種類の「ひとり」だ

わたしは その「ひとり加減」を
靴の底をすり減らしながら
心ゆくまで味わいつくして
最終便で 東京へ帰る
ローカル線の車窓から眺める
夕焼けを ささやかなお土産にして

午前零時過ぎ
宇宙基地のように明るい
東京駅におりたつ
雑踏と 騒音と
二十四時間 消えることのない光の中で
ほんの少し ほっとしている
見知らぬ人々が乗りあう電車のなかで
わたしはこっそり 
「ただいま」と つぶやいている
ひとりの部屋に 帰って言えない
「ただいま」を 電車のなかで

    詩集「中央線的詩画集」より



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