帰省

毎年 秋の終わりに
片道5時間、電車を乗り継いで
埼玉から 伊豆の実家に帰省する
娘の小さな手を右手に
浮かせた特急代で買った
お土産と お弁当を左手に

車窓から 海が見えだす頃には
ママから娘の顔になって
遠い日の情景を思い出す
長い髪を三つ編みにして
母が縫う服を着ていた日々
百円のお駄賃がうれしくて
商店街に お使いに走った夕暮れ

駅に着くと改札のむこうで
老いた母が笑顔で手をふっている
家に着いてお茶を飲んだら
二階の部屋で少し休む
夕寝から覚めて 下に降りていくと
縁側で 母と娘が笑いながら
渋柿の皮をむいている

七十を過ぎた母の背を
ぼんやりと見つめながら
母が孫娘と過ごす夕暮れは
あとどれくらい あるだろうと思う
わたしがこうして
ママから娘に戻れるひとときは
あとどれくらい あるのだろうと
思いながら 母の背を見ている

「あぁ、お腹すいた。お夕飯なあに」
二十年前と変わらぬ口調で
縁側の母に声をかける
二十年前と変わらぬ口調で
母が 皮をむきながら言う

「しづちゃんが好きなグラタンよ」



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