1980年前後に製造されたLS-200にお目にかかることはもう滅多にない。オークションでも年に1〜2度あるかないかだ。
2008年4月にショップ物件として出品された1981年製LS-200,まず写真を見てぶっとんだ,見たことがないようなトップが使われている。いったいなんだろう,興奮した,不整脈が出そうだった。
オークションの商品写真にはいまだに携帯電話のカメラを利用したピントすら合っていないいい加減なものやまともに撮影されていても商品の魅力を十分に引き出せていないものが多い。オークションサイトに掲示された写真はショップ物件ということで正直なものではあったが,このトップの魅力を十分に表現できていないだろうということは即座に分かった。きっとその写真を見た多くの人は『なんだか変な汚らしいトップだな』と思ったに違いない。
ペグがグローバーに換装されてるのは個人的にはちょっと気に入らないし,サウンドの試聴でも音の善し悪しはよく分からなかったが,不思議なトップの放つオーラに吸い込まれるように入札していた。
この手のギターになると必ずオークションブローカーが貪欲なブラックバスのように喰いついてくる。しかし彼らはそのギターを所有したいという情念ではなく売り物になるかならないかというドライな目で見ているので,絶対に所有したいという強い情念に駆動されている入札者には決して勝つことはできない。彼らの手に渡ってしまえば日本の宝であるこのギターは海外に渡っておそらく二度と日本には戻ってこない。いったいどれほどのギターがそのような形で異国に消えていったのだろう,そう思うと絶対に負けられなかった。
届いたギターは予想を超えて素晴らしい物だった。まずこのトップ,当時の国産ギターでこのような特殊杢のトップがあるのを初めて見た。一般的なキルテッドメイプルはLS-150/200,Greco EGFシリーズのトップクラスなどで見たことはあったが,こんなトップは見たことがない。やや小型の類円形模様が多数表出されていて,バーズアイにしては大きく玉目にしては小さい。水の中に漂う泡を思わせる立体感のある杢だ。
ギターを集め始めて木材についての知識も増えた。材の音響特性のこともある程度分かったし,杢のことも一通り分かった。調べてみるとこのトップはブリスターメイプル(Blister Maple)と呼ばれる杢,blisterとは泡のこと,和材用語でもそのとおり『泡杢』という。まさに見たままを表している。
さらに調べてみると,ブリスターメイプルをトップに使ったギターは極めて珍しいことも分かった。高級ギターの代表格PRSやカスタムショップのギターで散見されるが球数は僅少,価格も軽く50万円を超える。オリジナルバーストでもただ1本だけ紹介るれていた程度だ。
また,このギターは私のギター観を覆した。
今までの私は音についていえばプレーントップのレスポールこそ最高で,高価なギターは音よりも貴重材にによる付加価値によって高額になっているだけ,つまり音はプレーントップに敵わないと思っていた。しかしこのギターの音は素晴らしい。サウンドを言葉で表現するのは難しいのだが,バランス,音の腰,抜け,まるで個々の弦を個別のPUで拾っているかのような音の分離の良さ,絶妙なゆで加減のアルデンテだ。
このギターは私の所有するレスポールの中でサウンドの面でもトップに踊り出た。サウンドの素晴らしさがブリスターメイプルだけによるとは思えないが,トラ杢トップを持った他の2本のLS-200よりも音がよいことは確かで,ブリスターメイプルの威力を認めざるを得ない。またバックのホンジュラスマホガニーも素晴らしく,昨今の高級ギターでも見ることができなくなった非常に木理の細かいもので,一般的なマホガニーらしい導管が殆ど見えず,アフリカンマホガニーしか知らない人には決してマホガニーには見えない非常に美しい材である。
入手時は以下の写真のようにゴールドのGroverペグに換装されていた。ゴールド的な色調のボディーカラーと黒い指板,マシンヘッドまでゴールドだとまるで仏具のよう。レスポールカスタムなら最初から仏具的雰囲気だから許せるが,スタンダードには似合うとは思わない。2008年5月,オールドTokaiのクルーソンタイプのペグに交換した。ブッシュはコンバージョンブッシュを使用した。
ペグの軽量化によって音は暖かみを増し,さらに魅力的なギターへと変身した。ピックアップは純正のDiMarzio PAF,重量4.2kg。